那須の短歌 blog

短歌について書きます

短歌

「ビットとデシベル」 フラワーしげる

登場人物はみなムク犬を殺したことがある 本の向こうに夜の往来を見ながら どのような小説なのだろうか。もしかすると推理小説かもしれない。カフェで本を読みながら、ふと目を上げると、街はすっかり暗くなっている。本のあらすじを思い返してみると、登場…

「てのひらを燃やす」 大森静佳

祈るようにビニール傘をひらく昼あなたはどこにいるとも知れず 雨が降っている。だから傘をさす。ひどく日常的な光景の中であなたを思う。あなたを思うそれだけのことが、傘をさす一瞬を祈りへと変える。そこから立ち現れるのはとても強い思いだ。「ビニール…

「むかれなかった林檎のために」 中津昌子

あじさいにみどりの花がふくらめば手をのべて触れよあなたも空から いまは亡きあなたに手をのべて触れよ、という。 季節は五月だろうか。色づき始める前のあじさいのみどりと空の青がまぶしい。あるとき、ふっとあなたのことが思い出される。その思いはきっ…

「きなげつの魚」 渡辺松男

あしあとのなんまん億を解放しなきがらとなりしきみのあなうら 亡き妻のあしの裏を見ている。どれくらいの年月を共にしてきたのか、その時間を歩いた数になおせば何万、何億となるのだろう。その足跡から彼女は解放されたという。静かに見つめるという行為の…